弥生の本屋

小石川弥生のブログ小説です。

ブログ小説「記憶」絶望10話

僕の目の前にいる 巫女と泰三

 何がどうなっているのか......

 分からないが......異様な空気に包まれているのは 感じる......

 そんな空気の中 何故か泰三は

笑顔で

「圭兄ー!ちよっと待っててくれ!今、生贄をここから落とす所だから」

 そう言うと 泰三は巫女の縛った両手を 強引に引き寄せた......

「泰三!!お前何やってんだ!やめろ!」

 この時 僕は 自分自身から流れる血が 少しづつ 体の中を 上昇していくのを 感じながら 泰三を止めたくて 冷静さを 装っていた

 

 そんな思いを 泰三は......知らず

僕に

「えっ?!なんで?昔っからやってる事を なんで 止めるんだ...圭兄は......」

 

 昔から......やってる?......フゥー

ハァー フゥー 酸素がなくなりそうだ......フゥー......

「やめろ......巫女から......離れろ......フゥー...ハァー」

「あっ!そうか 圭兄は、巫女に惚れたんだ......」

 泰三は そう言って 笑みを浮かべ 巫女の面を剥ぎ取った......

 ドックン ドックン ドックン

 鼓動が 大きく 僕の耳の側で 鳴り響く......

 面を剥ぎ取られた 巫女の顔は...

巫女の顔は......カナエ......

 殴られたのか 顔は腫れあがり...

 僕の意識が......ぶっ飛んだ...

 心と体は 別の生き物ように.....

 一瞬で ......光速の如く カナエは僕の腕の中 へ

 微かに 開く口元が

 僕に...僕に...泰三を殺さないでと......願っていた......

 泰三の顔は 僕に 怯え 腰を抜かし 頭をかかえ

「どうして......どうして......ずっと そうやってきたのに......俺は何も悪くない......悪くない......

俺は 悪くない......なぁ そうだろう......圭兄......悪くないよな......

圭兄」

 泰三が......壊れていくのが......分かった......

 今まで 泰三や集落の人たち カナエとの 楽しかった 出来事が...

 僕の 頭を駆け巡り 悲しみの絶望に 追い込む......

 この世界の 絶望を......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブログ小説「記憶」カナエ9話

 炎天神儀も 無事終わった......

ただ......儀式の日も カナエの姿はなく

 その日以来 カナエは姿を 見せなくなり 一週間が立つ......

 具合が悪いのかくらいに 始めは思っていた......

 

 集落の人たちも 泰三も いつもと変わらず 僕に優しく にこやかで......いつもと同じ......違うのは

 カナエが 初めからいない 存在のように 誰も カナエの事を 口にする者は いなと言う事.....

 

それが 僕には 違和感しかなく カナエの事を 口にしていいものなのか......悩んだ.....でも

 やっぱり 聞くしかないだろうと

麓にある集落.に 向かった......

 

 弓矢を手に......僕は...この世界に来てから 何故か 弓矢が手放せない

 僕にとって 大事な気がして...

 

 集落について 泰三を探すが

泰三の姿が見つからない......

 村の人に聞くと 青龍山へ行ったと 教えてくれた、

 青龍山へ向かう...

 

 泰三は 狩りに行ったのか いつもなら 僕を誘うのに....

 連れないヤツだと この時はただそう思った......

 

 日がくれ前に 泰三を探さないと......気持ちの焦りから 歩く速度が早く 体力が奪われる......

青龍山に入り 泰三と呼び掛けながら 何kmも歩く

「泰三ーー!オーイ 泰三!」

 だけど 姿が見えない......

 諦めようか 迷いながら 足を進め 

ふと、今いる自分の場所が

カナエと来た 山肌近くではないかと 気がつく......

 自然と足が その場所を目指す

身長程ある 草を掻き分けて 山肌へ......

 僕が目にした 光景は......

 

 縄で 両手を 後ろに縛られた......

お面を被った巫女の姿と......

 その横に......泰三が立っていた......

 

ブログ小説「記憶」炎天神儀 8話

 1日目は 川で魚をとり 2日目は 狩りに獲物を 泰三と2日間共に奮闘し ようやく3日目......

 やぐらが建ち 準備は整っていた

 

 月の光と炎の灯火が なんとも言えない 空間を作り出し 

 どこからか 鈴の音が 

 シャンシャン  シャンシャンと

 響き 笛の音と交わり 響きわたる......

 一人のお面を被った 巫女が 

 シャンシャン シャンシャン

と、鈴の音を鳴らし やぐらで

巫女神楽を舞う

 それは......巫女の舞は 僕の心を魅了した......

 シャンシャン シャンシャン

 静かな舞が 次第に激しく 

 炎天神儀 神を祀る儀式

丁度 月が雲に隠れ 灯火の風に揺れる火が 巫女の舞を 一層に神秘的に魅せた......

 やがて 笛の音は止み 鈴の音も止み 巫女神楽は 静かに静止した......沈黙の時が流れ やぐらを降りる巫女は 灯火の届かない所へ消えていった......

 暫く 呆然とその姿が消えるまで

僕は 巫女から目が離せなくなっていた......

 

 炎天神儀が終わると 集落の人たちは いつもの宴のように 飲んで食べて

そして...朝まで灯火を消すことはなかった......

 

ブログ小説「記憶」川魚7話

僕が誰かから 聞いたと思ってたいた......あの記憶は......僕がカナエに話した記憶なら......

僕は 初めから この世界にいて

僕が戻りたい あの世界は......なんだ......僕は......ここが  いるべき場所なのか......

 

 初めに言っていた カナエの話しはウソで......だから 謝ったって事なのか......

 考えるだけで 頭の中が グルグル回る......

 カナエがウソをつく理由はなんだ......ウソまでついて......

 

 あの夜 青龍山から 戻った後

カナエからは 何も聞く事ができず

 僕は 一人タイミングを逃したまま 頭の中に雲がかかった状態だった......

 

そんな ある日 村一番の力持ち

泰三から 夏の終わりに 集落で代々伝わる 炎天神儀が行われるから

準備を手伝ってくれとの 声がかった......

 

 その準備に必要な 川魚、肉を取りに狩りへ行く事に......

 

 泰三とは なんだか 気が合う

僕よりも 背は高く 力もある なのに 僕の事を 圭兄と呼ぶ ようになった......

 狩り以来 何故か 僕を尊敬しているようで 僕に勝てる気がしない らしい.....嬉しいけど 僕こそ勝てる気がしない......

 

炎天神儀は3日後にあるらしく 今日は 川で魚を取って 明日は 狩りへ行く 計画になった......

 川へ着くと 泰三は

「圭兄 俺が魚取るんで 見ててくれ」

 そう言うと 雑に 衣を脱ぎ捨て

ふんどし一枚で 豪快に 川へ飛び込んだ!

 大きな水しぶきが上がる......

川の深さは 1mくらいか 泰三は

川の中に潜り 魚と格闘し始めた。

 格闘すること 1時間くらいか なんとか

1匹 掴んで 川から顔を出す 泰三の顔は必死感 満載で 何故か 

可愛かった......

 川から出る 泰三の姿は 少し疲れたようで

「圭兄 すまない....後は 頼む。」

 取った魚を 樽に入れると その場に大の字に 倒れ込んでしまった......

 相当 川の中で格闘したんだな...

「次は 僕が 取ってくるよ!」

 矢の本矧部分に麻紐をしっかり結び もう一つの 麻紐の先端を弓の握りの部分に結んだ

 衣を脱ぎ ふんどし一枚で 川の中へ 水面ギリギリの所に矢先を......泳ぐ魚の止まった瞬間に合わせ 矢を放つ......矢先から魚の距離 水圧で 思うように 仕留める事が難しい......

 一点に集中 角度を調整し 矢先を水面におき 矢を放つと

 矢先は 魚の背を貫き 止まった...

 

 僕は コツを掴みながら 夢中に...

気がつけば 樽の中に 10匹くらい魚が......

 泰三も 起き上がり 負けずと川の中に......二人で 夢中になりながら 時間を忘れ 魚をとった......

 

「圭兄は やっぱスゴいなー!」

 泰三の声で 時間の流れが止まった......夕日が 川の水面を オレンジ色に染め 泰三の笑顔が眩しく

 僕の心を満たしてくれた......

 楽しかった......

 

 

 

 

 

ブログ小説「記憶」ごめんね6話

山肌からの光景が 僕の眠っていた感情を揺れ動かす......

 僕の目の前に立つ カナエの後ろ姿が 何故か......僕の微かな...

 記憶を......

 

振り返る カナエの目には 涙が

零れ 言葉にしたい 気持ちだけが先走るのか......

「けっ......けい...圭吾さん..

.ごめ...ごめんね......」

 何故、カナエが泣いているのか

 なんで 謝るのか......僕は 分からない......だけど......言葉が自然と

「カナエは悪かないよ...思い出せなくて......ごめん...悪いのは僕だから...泣かなくていんだよ...」

 

 カナエは、泣きながら走り出し

僕の胸に飛び込んで......ぎゅっと僕を抱きしめ

「違うの...圭吾さんは何も悪くない......ずっと、ずっと......まって......」

 

 僕は......壊れそうな カナエを

 そっと......丁寧に......慎重に......抱き寄せ......泣き止むまで......

 ずっと...そのまま......

 

 時間流れ......気がつけば カナエは泣き止んで 顔を上げ 僕の顔を見ていた......

「あっ!カナエ!流れ星!」

 カナエは 僕の腕から 抜け出し 

 山肌から見える 空を見上げた...

「わぁーキレイだね...」

 

「カナエ......今見えてる 星は 

もう存在してない 星かもしれないね......今見てる 星は......過去かも......しれない......」

 

 あれ?!僕は......僕は......

あの言葉は......僕が話した記憶だったのか......

 

 カナエは 振り返り 

「戻ったの......記憶が...」

と、問いかけた......

 

 そう言えば......カナエは...あの頃と同じで弓が得意って......あの頃は......って......

 

 僕は いったい......誰なんだ......

 

 

ブログ小説「記憶」青龍山5話

カナエは

「圭吾さんは 記憶がなくても 弓の腕は あの頃と変わらず 村一番だね」

 そんな風に 僕を褒めてくれた...

 何故弓ができるのか  僕自信も不思議で 元の世界では 弓なんて一度もしたこともない...

 なのに、弓を触ると感覚なのか体や手が......分かってると教えてくれる......ずっと前から この世界にいたような...

 

「圭吾さん......覚えてるかな......」

 はにかんみながら 僕を見る...

 覚えてるはずはない......けど なんだか カナエが......悲しそうに見えたから 

「自信はないけど 言ってみて」

 曖昧に 答えれば 傷つかないだろうと......この時は 思っていた

 

カナエは 僕の手をとり 

「青龍山に行ったら 教えてあげる!」

「青龍山?!」

 僕は驚いた。

 青龍山までは 遠く 今からだと夜になってしまう......

「青龍山まで 何時間もかかるから、村の人たちが心配するから今日じゃなくても......」

 言いかけて カナエに遮られた。

「大丈夫だよ !圭吾さんと一緒にいるなら 」

 そう言う問題じゃないような気がするけど......カナエが さっきより 少し明るくなった気がしたから...これ以上は 言えず 

 青龍山に行くことに......

(青龍山は 名前の通り 青龍が宿る山と言い伝えられている。)

と、その前に 夜の山は 獣道に変わるって危険だから、僕は弓矢を家へ取りに行った。

 

 家に弓矢を取りに行ったせいで少し時間をロスしてしまった......

カナエは、何故か楽しそうだけど 僕は、やっぱり不安で 握る

カナエの手に力が入ってしまう...

 何時間歩いただろうか......山道は険しく 草木が僕たちの歩く速度を落とす...

 ようやく カナエが足を止めた。

「圭吾さん......この先だから...」

 今度は、カナエの手に力が入るのが伝わった....

 僕たちの身長くらい伸びた 草を二人で掻き分けて 到着した場所は ......山肌近くの所だった。

カナエの握る手が一層に強く

そして、

「見て...」

それは、月が照らす優しい光が夜空と山と集落を一帯とした

素晴らしい光景だった。

 夜空に輝く星の数は無限のように散りばめられ 言葉には できない感動が込み上げる......

そして......カナエが......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブログ小説「記憶」狩り4話

 ここに来て 初めの頃は  神に撰ばれたのか ......

 何の為に この世界に来たのか...

 そんな事ばかり 考えていたけど

  カナエが住んでる 麓の集落の人たちと交流するようになって いい人たちが多く......僕は......

 自然とそんな事を 考える事もなくなっていた...... 

 今日も カナエと村の人たちとで山へ 狩りに来ていた......

 誰が一番 多くの獲物をとるか 

競い合いながら......

 「圭吾ー!そっちにいったぞ!」

村で一番力持ちの 泰三が 叫ぶ

 僕の後ろから カナエが

「圭吾さん 気を付けて!こっちに向かってくるよ!」

 勢いよく こっちに向かって 突進するのは 体長150cm位 ちょうど カナエ位の大きさで 体重は100kgはあるだろう

 突進してくる イノシシの前方に

立ち塞がり 弓を引く 

 僕の約2mの所で イノシシは ジャンプした......僕に 覆い被さるように 僕に目掛けて 

 弓を空方向 斜めに向け イノシシの鼻目掛けて 矢を放つ 

 矢先は イノシシ 鼻を貫き 本矧の所で止まった......

 イノシシは弱点の鼻を 矢で射られ 方向が定まらず 木に激突 

 その隙を狙い 泰三が10kg位の石で 脳天をかちわった......

村の男たちの 天に向けての 雄叫びが 指揮を上げ......

 狩りは 辺りが茜色に染まる 夕刻まで続けられた......

 

 夕刻 僕たちは 誇らしげに

イノシシ2頭 しか1頭の獲物を2mちょっとの木の棒に 吊し

集落へ担いで戻った......

 集落へ戻った頃には 辺りはもう日が落ち暗く 村に残っていた者たちは 火をおこし 宴の準備を整えていた......宴が始まると

  男たちの

豪快な食べっぷりや笑い声は 夜遅くまで続き 女たちは その光景を優しく見つめ 誇らしく見守っていた......

 

僕は そんな村の人たちと一緒に

狩りができ こうして 食べて飲んで 笑っていられる事に 幸せを感じていた......この時は......